悪循環を切り、良循環を広げる

2015年01月30日06:52

私は患者さんが抱えている問題を解決しようとする場合、
問題の原因を見つけようとするのではなく、
「できていること」「できそうなこと」に目を向け、
これを広げるというやり方で問題を解決することをよくします。
これは「良循環を広げる」というやり方です。

しかし場合によっては、
そのようなやり方だけではうまくいかない場合もあります。
その時には「悪循環を切る」という作業もします。
言い換えると、悪循環を作っているその人の
「思い込み」を外すということです。

以前、ある入院患者さんの対応を依頼されたことがありました。
その患者さんは痛みのため鎮痛剤を希望するのですが、
その際のナースコールが頻回で、
多いときには1日100回を越えることもありました。
しかも、すぐに対応しないと怒り出し、看護師に罵声を浴びせ、
時にはものを投げたりすることもありました。
さらには、痛いところをマッサージしてくれと言い、
看護師を1時間以上も拘束するようなことが毎日のように続きました。
それに対して看護師もこの患者さんへの恐怖心からか、
彼の要求にすべて従わざるをえない状況でした。

そんな状況が何ヶ月も続いたため
さすがに看護師も疲弊しきってしまい、
もう限界という状況にまで追い込まれてしまったのです。
ここまで来ると、病院としても対応せざるをえなくなり、
院長から直接、この患者さんを何とかしてほしいという依頼を受けました。

事態はひっ迫していたため、
依頼を受け、すぐさま患者さんの部屋に赴きました。
部屋に入るといきなり「俺のことを追い出しに来たんだろう!!」と、
えらい剣幕でまくし立てられました。
そこでまず、あなたを追い出すために来たわけではないことをはっきり伝え、
次にようなことを話しました。

「今の状況だとナースは疲弊して、みんな倒れてしまうことが予想されます。
そうなるとあなたのケアもできなくなってしまいます。
そうなるとあなたも困るでしょう。
そんなことにならないように、どうしたらいいのかを相談しに来たのです」

今日ここに来た理由をそう説明した上で、
まずはじっくりと話しを聴きつつ、問題解決のための方向性を探りました。

この患者さんは思い通りにならないとすぐに怒るタイプの人でしたが、
その一方で、とても寂しがり屋という側面もあり
いつも誰か傍にいてほしいという思いを持っている人でした。
そのため、頻回にナースコールで看護師を呼び、
また、自分が寝付くまで
マッサージをしてくれるよう要求していたのでした。

それに対して看護師も、彼の言動に恐怖を感じていたため
たとえ自分勝手で無謀な要求だとわかっていても
それに従わざるをえないという状況に陥っていたのです。

このお互いの行動が、まさに悪循環を生んでいたのです。
つまり、彼は無謀な要求をし続け、看護師はそれに従うというサイクルが、
ずっと続くことになってしまったわけです。

この悪循環を切るためにどうしたらよいかを考えました。
彼は、看護師から嫌われ、誰も来てもらえなくなることへの
不安感があることはある程度わかりました。
また、看護師も頻回のナースコールで時間が取られ、
他の必要な業務ができなくなることが最大の悩みでした。
そのため、いかにしてナースコールが減らせるような意味づけをしつつ、
患者さんと看護師とのつながりも確保できるかがポイントだと考えました。

そこで彼に次のようなことを言いました。
「今後も、看護師が倒れず、あなたのケアを続けるためには
まずはナースコールの回数を1時間に1回以内にしてもらえないだろうか。
ただし、痛みが強いため頻回に鎮痛剤が必要なときもあるだろうから、
そのことも考慮して1日24回以内なら構わない」と提案したのです。

この提案のさい、ナースコールを減らしてほしいと要求するのではなく、
「1日24回以内ならよい」と許可を与える形の言い方をしました。
この方が、より実行してくれる可能性が高まるからです。

話の後半は多少やけっぱちになっている雰囲気がありましたが、
1時間半にわたる話し合いの結果、
最終的には上記の提案を受け入れてくれました。
正直、これですべてがうまくいくとは思っていませんでしたが、
とりあえず、私なりに悪循環を切るための
新たな意味づけをしたつもりではありました。

ところが、驚いたことに
この直後から、一切ナースコールがなくなってしまったのです!
もちろん痛みは続いていたので、鎮痛剤は飲んでいましたが、
その時は、詰め所までわざわざ薬をもらいに来るようになったのです。

彼は「ナースコールを押すと看護師に迷惑がかかるから
押したらいけないと先生に言われた」と言うので、
看護師は「そんなことはありませんよ、1時間に1回くらいなら
ナースコールを押してもらっても結構ですよ」と
何度も説明をしましたが、
彼は頑なにナースコールは押さず、
詰め所まで来て薬をもらうという行動を繰り返していました。

今考えると、「1時間に1回くらいなら呼んでもらってもいいですよ」
という看護師のねぎらいの言葉が
逆にナースコールを押さずにがんばるという思いを強め、
結果として、それが良循環を広げることになったのではないかと思いす。

いずれにせよ、それ以来ナースコールは一切なくなり、
看護師を怒鳴ったり、マッサージを要求したりすることもなくなりました。
さらには、私が話をした三日後には自発的に退院していったのでした。

この患者さんとのやり取りを通して、
いかに悪循環を切り、良循環を広げることが大切なのかを
あらためて教えられた気がします。

皆さんも悪循環を切ったり、良循環を広げたりして
問題解決に挑戦してみませんか。

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プロフィール

黒丸尊治

Author:黒丸尊治
もともと心療内科医でしたが、縁あって今は緩和ケア医として仕事をしています。もともと、コミュニケーションや「心の治癒力」に大変興味をもっており、今はホリスティック医学にもかかわっています。どちらかというと、のんびり屋でマイペースです。あまり人と同じことをしたくないという、天の邪鬼なところあり。
ホリスティックコミュニケーション実践セミナーHPはこちら。
http://holicommu.web.fc2.com

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