統計のトリック

2014年10月07日15:23

私たちは統計データと聞くと、
科学的で説得力のあるもののように思うことが多いようです。
確かにデータそのものは客観的なものなのですが、
実際には、その見せ方や解釈の仕方で
大きくイメージが変わってしまうという、
とても主観的な側面を持っており、
そのため結論が正反対になることもあるというのが統計データなのです。

そのことをとてもわかりやすく書いてある本を見つけました。
『「健康第一」は間違っている』(名郷直樹著、筑摩書房)という本です。
以下、この本に載っていた表を参考に話を進めていきたいと思います。
なお、表はすべて、この本に載っているものを使わせてもらいました。

例えば血圧と脳卒中の関係について見てみましょう
血圧が高くなればなるほど脳卒中になる率も高くなるので、
一般には高血圧を予防することが
健康にとってとても大切なことだと言われています。

そこで50歳代の2000人についての、
血圧と脳卒中との関係を表したデータを見てみましょう。

脳卒中
ありなし
血圧130以上10990
130未満3997

これを見ると、血圧が130未満の人では
1000人中3人が脳卒中になるのに対し
血圧が130以上の人の場合は1000人中10人であり、
血圧が高い人は低い人より脳卒中になりやすいということがわかります。
つまり、このデータを見る限り、
血圧が130以上の人は、130未満の人に比べ、
脳卒中になる率が3.3倍高くなると解釈できます。

次に、同じデータを異なる視点で見てみることにしましょう。
このデータの対象となった50歳代の人、2000人のうち
脳卒中になったのは13人ですから、
その割合は全体の0.0065%に過ぎません。
つまり99.9935%の人は脳卒中にならないということです。
ですから、50歳代の人は血圧の高い低いにかかわりなく
ほとんどの人(99.99%以上)は脳卒中にはならないと言えます。
つまり、血圧が高いことと脳卒中になることとは
ほとんど関係ないということになります。

一方は、脳卒中になる割合が3倍以上だと言い、
一方では、脳卒中になることはほとんどないと言っているのです。
同じデータを見ても、その見せ方や表現の仕方、理解の仕方によって
全く異なる結論になってしまうのです。

もうひとつ、データを示してみましょう。
これは80歳以上で収縮期血圧(上の血圧)が
160mmHg以上の患者3845人に対して
降圧剤を服用した群と服用しなかった群とを比較したものです。

脳卒中
ありなし
降圧剤服用511882
未服用691843
         (New Engl J Med.2008)

これを年間1000人あたり、何人が脳卒中になったのかで見てみると
降圧剤を未服用のグループ(プラシーボを服用)では17.7人であるのに対し
降圧剤を服用していたグループでは12.4人という計算になります。

では降圧剤の治療効果を見てみてみましょう。
この場合1000人あたりの脳卒中になる割合が、降圧剤を服用することにより
17.7人から12.4人に減ったということですから
12.4÷17.7=0.7(70%)に減少するということになります。
つまり100の脳卒中が70に減るわけですから
降圧剤を服用することにより
脳卒中を30%も減らすことができたということになります。

今度は、同じデータを異なる視点から見てみましょう。
治療したグループで脳卒中になった割合は1.24%であるのに対して、
治療しなかったグループの場合は1.77%ですから、
その差、1.77-1.24=0.53%が治療によって脳卒中が減った割合です。
つまり、治療することで脳卒中は0.53%しか減らなかったということです。

一方では脳卒中を30%も減らすことができたと言い、
一方では0.53%しか減らすことができなかったと言っているわけです。
同じデータを見ても、表現の仕方によって
結果が正反対になってしまうことがわかると思います。

さらに別の見方をすると
降圧剤を飲もうが飲むまいが脳卒中にならなかった人は
3845人中3725人おり、
これは降圧剤の服用の有無に関係なく
96.8%の人は脳卒中にならないということを示しています。

つまり、高血圧をコントロールすることと脳卒中になるということとは
ほとんど関係がないので
高血圧の人でも降圧剤を飲む必要はないという結論を出すこともできるわけです。
これが統計のトリックです。

私がここで言いたかったのは、
何も血圧と脳卒中とはほとんど関係がないとか
降圧剤は脳卒中の予防に意味がないなどということではありません。
同じデータでも、著者の意図次第でいかようにも都合のよいデータに
仕立てあげることができてしまうというというこを言いたかったのです。

このような性格をもっているのが統計データなのです。
あたかも客観的で真実を言い表しているかのように思われがちですが、
統計の裏に隠されている、著者の意図やトリックを見抜く力がないと、
つい、騙されてしまう危険性があるのです。
だからこそ統計データには
このような異なる解釈ができるという側面があるということを常に認識しつつ、
様々な側面からデータを見るということが必要になってくるのです。

みなさんも、統計データを鵜呑みにせず、
巧妙なトリックに騙されないように注意して下さい。
統計データによって心を操られたり、
都合のよい方向に誘導されたりしないことを祈っています。
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コメント

No title

数字のマジック、とても分かりやすかったです。
ありがとうございます^^
統計学では良くある事のような気がします。
母数にどのような方のデータを利用するかも関係しますよね。
他の方にもお知らせしたいので、
シェアさせてくださいませ^^

  • 2014年10月08日 17:26 |
  • 宇栄原千春 URL :
  • 編集

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プロフィール

黒丸尊治

Author:黒丸尊治
もともと心療内科医でしたが、縁あって今は緩和ケア医として仕事をしています。もともと、コミュニケーションや「心の治癒力」に大変興味をもっており、今はホリスティック医学にもかかわっています。どちらかというと、のんびり屋でマイペースです。あまり人と同じことをしたくないという、天の邪鬼なところあり。
ホリスティックコミュニケーション実践セミナーHPはこちら。
http://holicommu.web.fc2.com

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