「錯覚の科学」を読んで

2012年12月25日07:09

12月に入って無意識関連の本を何冊か読みましたが、
今回はその中でも特に面白かった
「錯覚の科学~あなたの脳が大ウソをつく」(文藝春秋)を紹介させて頂きます。
著者はアメリカの心理学者であり、
私たちが日常で知らず知らずにうちに陥っている六つの錯覚、つまり
「注意の錯覚」、「記憶の錯覚」、「自信の錯覚」、
「知識の錯覚」、「原因の錯覚」、「可能性の錯覚」について詳細に述べています。

例えば、車を運転している最中の携帯電話は法律で禁止されていますが、
両手をハンドルから離さなくてすむハンズフリーの携帯であれば
安全だというのは「注意の錯覚」からくる全くのウソだと言うのです。
実は、携帯を手で持って話していても、ハンズフリーで話していても、
注意力の点ではほとんど差がなく、
それが運転に及ぼす影響は飲酒運転に匹敵するのです。

なぜかというと、人は何かに集中していると、
それ以外のものは見えているのに見落としてしまうという特性があるからです。
それが人間の脳の働きなのです。
ですから、電話の会話に意識が向いていると、
ハンドルを両手で持っていようが片手でもっていようが
周囲に対する注意力が低下し、信号への反応も鈍くなるため
事故を起こす確率が格段に上がってしまうのです。

人は何かに集中していると、
はっきり見えているにもかかわらず、それを見落としてしまったり、
目の前に予期せぬものが現れても、それに全く気づかず、
見過ごしてしまったりするということがしばしばあるのです。
つまり実際に見ているのに見えていないという現象が起こるのです。

そんなこともあるだろうけど、
私は大丈夫だと思っている方、
このブログの最後に面白いテストを用意しましたので、
是非やってみて下さい。驚きますよ、本当に。

これ以外にも日常でしばしば経験するのが
「記憶の錯覚」や「自信の錯覚」です。
過去の記憶がとても鮮明な場合、
人はその記憶が正しいものだと確信を持っているものですが、
実はかなり間違っていることが多いというのです。

2008年に民主党候補指名争いでオバマに対抗していたヒラリー・クリントンは、
ある演説の中で「私は1996年3月に訪れたボスニアのトゥズラの空港で、
飛行機が着陸した際に狙撃兵の銃火を浴びたのを覚えています」と、
その恐怖体験を語っています。
しかし、その時の写真や報道が多数存在しており、
実際にはそのような事実は全くなかったことが明らかになりました。
結局、このヒラリーの記憶の歪みが
指名争いでの敗退につながった言われているのですが、
なぜこのような「記憶の錯覚」が起こるのでしょうか。

それは、人が記憶を脳に定着させるときに
「本当にあったこと」だけでなく、
「あるべきはずのこと」や「そうあってほしいこと」を
勝手に混同してしまうからなのです。
とくに、強い感情を伴う記憶は印象深く、鮮明に思い出すことができるので、
人はその記憶が誤りだということに全く気づかないことも多いのです。
もしもヒラリーがこの「記憶の錯覚」にさえ陥っていなかったならば、
今頃彼女はアメリカ初の女性大統領になっていたかもしれません。
錯覚は歴史をも変えてしまう程の影響力を持っているものなのです。

記憶とはこれほどまでに曖昧であるにもかかわらず、
人は鮮明な記憶ほど正しい記憶だと思い、自信も持って話しをするため
他人も、その人の記憶が正しいと思ってしまう傾向があるのです。
ここに「自信の錯覚」が生じてしまうのです。
これををうまく利用しているのが詐欺師であり、
許し難い行為であることは言うまでもありませんが、
「自信の錯覚」が冤罪(えんざい)を作り出すとなると
なおさら看過できる話しではありません。
しかし、1984年7月に起きた女子大生レイプ事件がまさにそれでした。

その事件で被害者の女子大生は
レイプ魔の顔貌を細部までしっかりと目に焼き付けており、
警察で確信を持って「犯人」の顔写真を選び出しました。
そして法廷では、全くぶれることなく自信たっぷりに
完璧な供述をしました。
陪審員は4時間に及ぶ審議の末、彼を有罪と評決しました。
しかしその10年後に真犯人が見つかることとなり、
彼の無罪が証明されたのです。

犯人とされた男性のあいまいで不確実なアリバイに対し、
彼女は一貫して自信にみちた犯人確認や証言をしていました。
つまり陪審員は彼女の自信あふれる証言を聞き、
彼女の証言は正しいと判断し、これが重要な決め手となったのです。

裁判では、たとえ頼りない情報でも、
証人の自信が陪審員の判断に大きな影響をあたえると言われていますが、
ある目撃証言の専門家は
「人が強い自信あふれた不正確な証人に出会う確率は、
背の高い女性に出会う確率と同程度である」と言っています
実際にはそれくらいありふれたことなのですが、
人は自信に満ちた人のことを信じてしまう傾向があるのです。
これが「自信の錯覚」の怖いところです。

さて話しは変わりますが、あなたは自転車がどうして動くのかを説明できますか?
たいていの人はできると思っているのですが、
実際には、チェーンがどこに付いているのか、
ブレーキはどこにつながっているのかなどと改めて問われると、
答えに窮してしまう人も少なくありません。
このように、自分は知っていると思っていても
実はほとんど知らないということも多いのです。
これが「知識の錯覚」です。

特に見慣れたもの程、わかった気になりやすいのですが、
実はほとんど知らないこともしばしばです。
確かにそう言われると、
なぜトイレの水は流れるのか、どうして空は青いのかなど、
わかっているようでわかっていないことがたくさんあります。

また、人はあるパターンを見つけると
すぐさまそこに原因と結果を見出す傾向があります。
例えば、よく雨の日に関節炎が痛むと言われますが、
実際に実験をしてみると全くそのような証拠はないのです。
ではなぜ、このようなことがまことしやかに言われているのかというと
それは関節炎を患っている患者も、痛みが起きた寒い日は記憶していますが、
痛みのなかった雨の日や痛みのあった晴れの日はすぐに忘れてしまうのです。

つまり、天候と痛みを関連づけて考えるのは、
自分がすでの持っている思い込みに合わせてデータを解釈したがるという
心の働きに起因しているのです。
これが「原因の錯覚」です。

他にもモーツアルト効果やサブリミナル効果などは
「可能性の錯覚」に過ぎないなど、
面白い話題が満載の本でした。

本書を読んで、私を含めた誰もが、知らず知らずのうちに、
思い込みや錯覚の世界にどっぷりと浸かっていることを
改めて思い知らされた気がしました。
このような様々な錯覚があることを知ったうえで人の話を聞いてみると、
その人がいかに錯覚や思い込みの世界で生きているのかがよくわかります。
それが対立や争いを生むことを考えると、
誰もがもう少しこの点を認識する必要があるのではないかと思いました。

さて、お約束通り最後に面白いテストを用意しました。
以下のサイトを開くとYou Tube のビデオがたくさん並んでいますが、
その中の最初のビデオを見てみて下さい。
学生がバスケットボールをしているビデオ(1分22秒)が見られます。
スタートボタンを押すと画面に
「白シャツの学生はパスを何回しますか?」(英語)と出てきます。
さあ、実際にやってみて下さい。面白いことが起こりますよ!
何が起こるかはお楽しみに。
http://www.theinvisiblegorilla.com/videos.html
スポンサーサイト

テーマ : モノの見方、考え方。
ジャンル : 心と身体

コメント

メリークリスマス☆

お久しぶりです☆
錯覚の記事、面白かったです。
その錯覚を良い方に利用していきたいですね!
来年のセミナーにも、参加できる日があればいきたいと思います。

  • 2012年12月25日 22:45 |
  • 中村友里 URL :
  • 編集

コメントの投稿

非公開コメント


プロフィール

黒丸尊治

Author:黒丸尊治
もともと心療内科医でしたが、縁あって今は緩和ケア医として仕事をしています。もともと、コミュニケーションや「心の治癒力」に大変興味をもっており、今はホリスティック医学にもかかわっています。どちらかというと、のんびり屋でマイペースです。あまり人と同じことをしたくないという、天の邪鬼なところあり。
ホリスティックコミュニケーション実践セミナーHPはこちら。
http://holicommu.web.fc2.com

最新記事

検索フォーム

QRコード

QRコード