希望を失ったとき人は死へと向かう

2016年06月30日05:24

以前、80歳代で胃がんの肺転移で亡くなった男性患者さんがいました。

本人は末期がんだということはわかっていましたし、
生きていても意味がないので早く逝きたいとしきりに言っていました。

しかしその一方で、ちょっとした症状があると気になるようで、
鼻が詰まる、喉が痛いという訴えから、
足がむくんでいる、呼吸がしにくい、体がだるい等々、
様々な症状を訴えていました。

本人曰く、早く死にたいと言っておきながら、
ちょっとでも症状があるとすぐに心配になるなんて
矛盾してますよね、と。

死ねば楽になるという思いから、
早く逝きたいと、つい言ってしまうのでしょうが、
楽になるのであればもう少し生き続けたいという思いも
あったのではないでしょうか。

実は、彼が入院している間に妻が心臓の手術を受けることが
急きょ決まりました。

すると、あれほど早く死にたいと言っていたのに、
妻が手術を終え、元気になるまでは
自分は死ぬわけにはいかないと、
言うことがガラッと変わりました。

そして無事、妻の手術が終わったという連絡を受けると、
ホッと胸をなで下ろし、これで一安心だと喜んでいました。

すると今度は、妻が退院したら
自分も退院したいと言い出すようになりました。
その時は、食事も食べられ、
椅子に座って新聞やテレビを見ることもできたし、
トイレにも一人で行けていたので、
退院することは全く問題ないと思っていました。

その妻が退院後、病院を訪れた際にその思いを妻に伝えたようですが、
術後まだ二周間しか経っておらず、体調も万全ではないため、
帰ってきてもらうと負担が大きいので
もうしばらく待ってくれと妻に言われたとのことでした。

その日以来、がっくり彼は落ち込んでしまいました。
すっかり帰るつもりだったのに、
その見通しが全く立たなくなったことに対する
失望感だったのではないでしょうか。

以来、再び「早く逝きたい」を連発するようになりました。
常に体がえらいと言うようになり、
注射でコロッと逝かせてほしいといった発言も聞かれるようになりました。

もちろん、そんな安楽死をさせるようなことはできるはずもなく、
また、会話ができ、食事が食べられる人が
そう簡単に亡くなるとも思っていませんでした。

ところがそれから10日くらい経ったある日、
部屋のトイレに行こうとした際に転倒してしまいました。
まだ歩けると思っていた本人にしてみればショックだったようです。

その出来事が失望感に拍車をかけたのでしょうか、
以来、状態は急速に悪化、
結局、その4日後に亡くなってしまいました。
家にはしばらく帰れないとわかってから、たった2週間後のことでした。

妻が退院したら自分も退院すると言っていた頃は、とても元気そうであり、
それから一カ月もしないうちに亡くなるとは思ってもみませんでした。

希望が失望に変わると生命エネルギーが急速に減退し、
人を死に追いやるまでになるということを
改めて思い知らされた気がしました。

いかに希望や心を支える存在が大切なのかを
感じずにはいられない忘れられない体験でした。


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プロフィール

黒丸尊治

Author:黒丸尊治
もともと心療内科医でしたが、縁あって今は緩和ケア医として仕事をしています。もともと、コミュニケーションや「心の治癒力」に大変興味をもっており、今はホリスティック医学にもかかわっています。どちらかというと、のんびり屋でマイペースです。あまり人と同じことをしたくないという、天の邪鬼なところあり。
ホリスティックコミュニケーション実践セミナーHPはこちら。
http://holicommu.web.fc2.com

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