きわめて困難なケースへの対処法②

2015年10月30日08:22

(前回に続く)
二例目は肺がん末期の患者さん(母親)の息子さんのケースです。
緩和ケア病棟に転棟してきたこの患者さんに、
自営業をしていた息子さんは常に付き添っていました。

彼は母親への思い入れがとても強く、
ちょっとでも母親の「辛い!」「苦しい!」という言葉を聞くと、
それにすぐさま反応してしまい、
「苦しがっているじゃないか!」と次第に興奮状態となり、
大声を出して怒り出したりするというのが
前の病棟にいたときからのパターンでした。

母親は認知症があり、ちょっとしたことでも
「痛い!」「病院に連れてって」などと言うところがあましたが、
たいていは傍にいてさすってあげたりしていると、また落ち着いてくるため
ナースが対応する場合は、何の問題もありませんでした。

ところが息子さんは、母親の言葉を真に受けて慌ててしまし、
それに反応するかのように母親も大きな声になり、
さらに息子さんも焦り興奮し始めるというパターンに陥るのが常でした。

そうなると何が何だがわからなくなってしまうようで、
病室から救急隊や警察に電話をかけて呼ぶということも何度かありました。
もっとも1~2時間ほどして興奮がおさまると、
「先程はすまんかった」と、謝罪の言葉を口にすることもよくありました。

このような行動を何度も繰り返すこの息子さんを病院も問題視しており、
今度同様のトラブルを起こした場合には病院への出入りを禁止することを
本人に文面で伝えていました。

しかし、私としては出入り禁止にしてしまうことには反対でした。
なぜならば、もしも本当に出入り禁止になってしまったら、
最愛の母親の最後を見取れなくなってしまうため
それこそ、何をしでかすかわからないと思ったからです。
しかし一度出された病院の決定を覆すことはできません。

そこで私は
「出入り禁止になったら母親の最後を看取ることもできなくなってしまうので、
それだけにはさせたくない」と強調、
そうならないためにも対応策を
一緒に考えながらやっていきましょうと約束しました。

そうは言ってもナースにとっては、
息子さんがいつ爆発するかわからないという不安や恐怖があり、
過度の精神的緊張を常に強いられていました。
息子さんも興奮しないようにしなければと頭では理解しているものの、
そのような状況になると、つい我を忘れて興奮してしまうのでした。

また自分としては怒っているつもりはないと言うのですが、
明らかにナースは恐怖心を抱いており、
両者の間に認識の違いがあることもわかりました。
そのためナースも恐怖を感じていることを伝える必要があったのですが、
その状況になると彼の大声と威圧感に圧倒されてしまい、
怖くて言葉がでなくなってしまうのです。

そこで「今、恐怖を感じている」ということを
息子さんに伝えるためにカードを作成し、
その場でこれを見せることで恐怖の思いを伝えようと考えました。

すぐさまハガキ大のカードを用意し、
表にはイエローカードの下地に
「申し訳ございませんが、今、怖いです」と書き、
裏にはレッドカードの下地に
「申し訳ないですが、家族室へ移動願います」と書きました。

息子さんにこれを見せながらカードの趣旨を説明し、
それを使用することを了解してもらいました。
息子さんも私の説明に終始笑顔で応えてくれ、
後日担当ナースには
「わしのためにここまでやってくれてうれしい」と語っていました。

結果的にはこのカードは使われることなく、
最後のときを迎えることができました。
その際もきわめて冷静であり、感謝の気持ちを述べて病院をあとにした。

このケースの場合、
先ずは息子さんの話をよく聴き、
信頼関係を築いていったことは言うまでもありません。
さらに、病院を追い出されないようにできるだけの努力をすることを
意識的に伝えることで「私はあなたの味方」であることを強調しました。

また興奮が興奮を呼ぶという悪循環を
いかに断ち切るかということをあれこれ考え、
その中で考えついたのがこのカードの作成でした。
しかしこのカードは、実際には使われなかったことを考えると、
もしかしたら、私たちの一生懸命な思いが彼に伝わり、
それが興奮の連鎖反応という悪循環を切ってくれたのかもしれません。

私が今回のケースで最も言いたかったことは、
問題の原因に目を向けるのではなく、
悪循環を切るという視点を取り入れると、
問題解決がとてもやりやすくなるということでした。

これはブリーフセラピーの持つ二つの視点のひとつです。
コミュニケーションのセミナーなどでは、
「できていること」に注目しそれを広げるという
良循環の促進を強調していましたが、
実際には、ここで示したような悪循環を切るという視点も
問題を解決するうえにはとても重要なのです。

これからも多くの人にブリーフセラピーの考え方に興味を持ってもらい、
緩和ケアの分野でも様々な問題に対して
より柔軟な視点から対応ができる人が増えてきてくれたら
私にとってはこの上ない喜びです。
これからもがんばります。

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プロフィール

黒丸尊治

Author:黒丸尊治
もともと心療内科医でしたが、縁あって今は緩和ケア医として仕事をしています。もともと、コミュニケーションや「心の治癒力」に大変興味をもっており、今はホリスティック医学にもかかわっています。どちらかというと、のんびり屋でマイペースです。あまり人と同じことをしたくないという、天の邪鬼なところあり。
ホリスティックコミュニケーション実践セミナーHPはこちら。
http://holicommu.web.fc2.com

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