映画「東京物語」を見て

2016年02月29日08:06

先日、午前十時の映画祭でやっている「東京物語」を見てきました。
この映画は、2012年の英国映画協会による
世界の映画監督358人が選ぶ「最も偉大な映画」1位に輝いた作品であり、
言わずと知れた日本映画の最高傑作のひとつです。

終戦から8年後、私が生まれる6年前の昭和28年という大昔?に公開された
小津安二郎監督の代表作品です。
尾道(広島)から上京してきた老夫婦を演じたのは笠智衆と東山千栄子、
そして戦死した次男の妻を演じたのは
昨年9月5日に95歳で亡くなった原節子でした。

とにかく映画全体に昭和の懐かしさが満ちあふれており、
白黒テレビやレコードで育った私にとって、
何とも言えぬ素朴さと純真さが心に染み入る映画でした。

この時代はまだテレビはありませんでしたし、
冷蔵庫や洗濯機も高価でほとんど普及していませんでした。

掃除と言えばバケツや雑巾、はたきやほうきですし、
夏は蚊取り線香とうちわが必需品、
急を知らせるのは電報で、最後の看取りは自宅という、
そんな日常を人々は生きていました。

また、いくつか印象に残ったシーンがありました。
原節子が一人で住む四畳半ひと間のアパートに
老夫婦が遊びに来たのですが何も出すものがないため、
お隣さんのところに行き、お酒と徳利を借りに行きます。
その際、「これも持って行く?」と言われ、
渡されたのがビーマンの煮物でした。

それを部屋に持ち帰り、お酒を温め、
老夫婦にお酒とピーマンの煮物を振る舞うのです。
「ん~うまい」と言いながら、
お猪口をすすっている父親のその表情が何とも言えませんでした。

出されたものは質素以外の何ものでもないのですが、
そこには心づくしのもてなしがあり、
だからこそ、隣から拝借したお酒でも、
この上ないおいしさを感じたのではないのでしょうか。

一方、開業医となっている長男や美容院を営む長女のところに行ったときには、
「肉でも食べさせておいたらそれでいいんじゃない」といった、
どこかめんどうくさそうな対応でした。

食事の中身は高級であろうが質素であろうが、
もてなす側の気持ちいかんで、
おいしさや満足感は大きく変わるものだということを
このシーンを見てつくづく感じました。

それからこの映画では、時間の流れの緩急の対比も印象的でした。
老夫婦は尾道から夜行列車に乗って
15時間かけて昼過ぎに東京に着いたのですが、
今なら新幹線で日帰りも可能です。

その後、長男夫婦の休日を利用して、
東京見物に連れて行ってあげると言われながらも、
急の往診が入り行けなくなってしまい、
その後の数日は、二階の部屋で一日を過ごすことになってしまうのです。

テレビもありませんし、あまり出歩くこともできません。
そんな状況の中、父親が物干し台に上り
外を眺めているシーンがありましたが、
これがとても印象的でした。
子供たちがバタバタと忙しくしているのとは正反対に、
老夫婦の時間の流れは何ともゆるやかなのです。

他にも、二人にずっといられるのを煩わしく思った長男長女は、
熱海の旅館に行ってきたらどうかと提案、
それに従い出かけるのですが、
そこでも、他の若い客の騒がしさにはなじめず、
二人で海岸に行き、ずっと海をながめていました。

これらのシーンには、
忙しい子供たちに迷惑をかけてはいけないという気遣いと、
一方で、厄介者に思われているんだなという寂しさ、
そして、近い将来訪れるであろう死の予感も相まって、
ゆったりと流れる時間の中にも、
どこか哀愁が漂っていました。

この映画を見ていると、ふと思い出す患者さんがいました。
家に帰ることもままならず、
ずっと緩和ケア病棟に入院していたその患者さんは、
毎日30分の足浴と三食の食事が一日の楽しみであり、
その他のほとんどの時間は、外の景色をながめながら過ごしていました。
それでいて、いつもニコニコしているのです。
なんか、この老夫婦と重なり合うものを感じました。

私たちは、日常や仕事で多忙な毎日を送っていることもあり、
なかなかこのような時間の流れを経験することはありません。
でも、時々は立ち止まって、「今」というときにじっと佇み、
物思いにふけったり、家族や周りの人たちとのつながりに思いを馳せたり、
そんな時間を持つことも大切なのかもしれないと思いました。

世知辛い現代社会に生き、やれ経済成長だの、
やれ三つ星レストランだのと言っているのを聞いていると、
いつも、どこかしっくりこないものを感じていました。

でもこの映画を見て、その違和感の意味がわかりました。
私には豪華さや華やかさよりも、
質素さや素朴さの方があっているのです。
そちらの方が親しみや安らぎを感じるのです。

また、明るく楽しいのもよいのですが、
その一方で哀愁やもの悲しさにも惹かれます。

私は人生の根底には哀愁があると思っています。
年を取ってくれば、誰でもその現実が見えてきます。
だからこそ、目を背けずにしっかりと受けとめたいのです。

素朴さと哀愁、この二つの大切さを
「東京物語」は私に教えてくれた気がしました。

なお「東京物語」は「第三回 新午前十時の映画祭」
3月18日までやっています。
よかったら是非一度、スクリーンで見てみて下さい。

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プロフィール

黒丸尊治

Author:黒丸尊治
もともと心療内科医でしたが、縁あって今は緩和ケア医として仕事をしています。もともと、コミュニケーションや「心の治癒力」に大変興味をもっており、今はホリスティック医学にもかかわっています。どちらかというと、のんびり屋でマイペースです。あまり人と同じことをしたくないという、天の邪鬼なところあり。
ホリスティックコミュニケーション実践セミナーHPはこちら。
http://holicommu.web.fc2.com

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