医療における「思い込み」の効果

2014年04月23日06:56

人は体調を崩したり、病気になったりすると病院に行きます。
そこで診察を受け薬をもらったり、ときには入院をして手術を受けたりもします。
患者さんは、当然のごとく、薬や手術で病気を治してもらったと思っています。
もちろん、そのような側面もあるでしょう。
例えば、肺炎に対する抗生物質の点滴や、虫垂炎に対する手術といった場合は、
何の治療もしなければ死ぬ可能性もありうる病気であることは確かです。

しかし、病院を訪れる患者さんの8割は
実は、薬など飲まなくても勝手によくなってしまう症状だと言われています。
確かに、ちょっとした風邪や、軽い怪我などは
放っておいてもたいていは自然によくなります。
体には自然治癒力があるのですから当たり前と言えば当たり前です。

しかしそのような場合でも、
多くの患者さんは病院に行き、薬や点滴による治療を受けます。
そして、それらによって病気がよくなったと思うのです。
しかし実際には、薬や点滴によってよくなったというよりも、
患者さんの「思い込み」によってよくなっている側面の方が
大きいように思うのです。

例えば、昨夜からずっと腹痛と下痢が続いているため
救急外来に来たという患者さんはよくいます。
何回くらい下痢をしたかとたずねると、
ほとんどトイレから出てこられないぐらい頻回であり、
家を出る前と病院に着いてからもトイレに行っていたと訴えます。

一通り診察をして、ごく普通の急性腸炎だと診断をつけたら
あとは「点滴をします」と言ってベッドに移動してもらいます。
ところが点滴をし始めると、
ものの5分もしないうちに寝てしまう患者さんが結構いるのです。
トイレから出てこられない程の下痢が続いていたはずなのに、
点滴をし始めると、なぜか落ち着いてしまうのです。

何でこんなことが起こるのでしょうか。
点滴に下痢止めの薬が入っているわけではありません。
いわゆる生理食塩水であり、脱水を多少改善させることはできても
すぐさま下痢を止める効果などありません。
にもかかわらず、あれだけ続いていた下痢が点滴をはじめた途端に止まるのは、
これで下痢がよくなるという「思い込み」が安心感をもたらし、
その心の状態が自律神経系などに影響を及ぼし、
腸の動きを穏やかにしてくれるからと考えられます。
つまり「思い込みの力」のなせる技というわけです。

薬に関しても同じようなことをよく経験します。
例えば、パニック障害の場合、電車に乗ろうとすると
突然、動悸や息苦しさが出てきて不安感が強くなり、
電車に乗れなくなってしまうというようなことが起こります。

そんな患者さんには、
パニック発作が起こったときのために頓服薬を出しておくのですが、
その薬はたいていの場合、安定剤です。
安定剤は飲んだらすぐに効くわけではなく、体に吸収され
血中濃度がある一定のレベルまで上がって初めて効果を発揮します。
その間、30分程度の時間がかかるのが普通です。

ところが不安発作が起こり、もらっていた薬を飲むと
多くの患者さんは5分もしないうちに不安感は収まってきます。
つまり薬の効果が発揮される前に症状が収まってしまうのです。
この場合も、薬剤の作用によって不安感がなくなったとは考えられません。
そうではなく、点滴の場合と同様、、
薬を飲むことにより、これで良くなるという安心感が生まれ、
それにより不安感が和らいだと考える方が自然だと思います。
まさに「思い込み」の効果です。

医療の世界では、薬や点滴で病気を治しているというイメージが強くありますが、
実際には、このように薬や点滴という「道具」を利用して、
患者さんの「これでよくなる」という「思い込み」を引きだし、
その安心感や期待感、信頼感によって
症状の改善を図っているという側面がかなりあるのです。

また白衣を着たお医者さんの権威も
その先生の言ったこと、やっていることを信じていれば大丈夫という、
患者さんの「思い込み」を形成する上において大いに役立ちます。

西洋医学は、高度で科学的な知識と技術の集大成によって
治療が行われているのは事実ですが、
しかし実際に症状や病気がよくなるのは、
薬や点滴ではなく、患者さんの「思い込み」、
つまり、患者さんが持つ「心の治癒力」が大きく働いているのです。

そのような視点を持った上で、
必要に応じて薬や点滴を利用するというのであればよいのですが、
医者も患者も、
薬や点滴で病気を治していると思っている人が多いという事実を思うと、
私は少々寂しい気持ちになってしまいます。
もう少し、自分の力を信じて上げてもいいのではないかと。
みなさんはいかがですか?
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テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体


プロフィール

黒丸尊治

Author:黒丸尊治
もともと心療内科医でしたが、縁あって今は緩和ケア医として仕事をしています。もともと、コミュニケーションや「心の治癒力」に大変興味をもっており、今はホリスティック医学にもかかわっています。どちらかというと、のんびり屋でマイペースです。あまり人と同じことをしたくないという、天の邪鬼なところあり。
ホリスティックコミュニケーション実践セミナーHPはこちら。
http://holicommu.web.fc2.com

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