西洋医学と心の治癒力

2012年05月15日16:34

西洋医学における治療の中心は薬と手術、放射線です。
この中で、最も頻繁に使われているは言うまでもなく薬です。
現在は新薬が国に認可されるためには必ず「治験」をして、
そこで科学的に有効性が証明されなければ薬として認可されません。
つまり医者は、この「お墨付き」をもらった薬を使って、
日々患者さんの治療を行っているのです。

その一方で、薬の有効性があるか否かは別として、
薬を飲んだという安心感で病気がよくなる場合もあります。
例えばウイルス疾患である風邪に、抗生剤は全く無効ですが、
実際にはこれを飲んで風邪が良くなってしまう患者さんが少なからずいます。

このようなケースでは、自然経過でよくなったとも考えられますし、
薬を飲んだという安心感や期待感が自己治癒力を促し、
その結果として風邪がよくなったと解釈することもできます。
いずれにせよ、体の持っている治癒力が風邪のウイルスをやっつけ、
それで風邪が治ったというのが実際のところです。

では、科学的に有効性がはっきりと証明され、
国から「お墨付き」をもらっている薬に関しては、
期待感などといった心の作用による効果ではなく、
薬そのものによる治療効果が十分にあることが証明されているのでしょうか。
そんなのは当たり前だと思っている方も多いかもしれませんが、
実はそうではないのです。どういうことなのか説明しましょう。

新薬の有効性を判断する際、その根拠となるのが「治験」の結果です。
これはどのように行われるかというと、
例えば新しく開発された抗うつ剤の有効性の有無を調べたいと思ったならば、
先ずはその抗うつ剤(実薬)とプラシーボを用意します。
プラシーボとは、色や形など本当の薬と区別がつきませんが、
実際には全く薬効のないもの(デンプンの粉のようなもの)のことを言います。

例えば抗うつ剤200錠とプラシーボ200錠の合計400錠用意し、
これをうつ病の患者さん400人に投与します。
当然、200人の患者さんには実際の抗うつ剤が投与され、
残りの200人には薬効のないプラシーボが投与されます。

その際、投与される患者さんはもちろんのこと、それを投与する医者も、
目の前にいる患者さんにどちらが処方されたかわからないようになっています。
もしも、どちらが処方されたのかがわかってしまうと、
そこには当然、各々の先入観が入ってしまう可能性があるため、
正確なデータが取れなくなってしまうからです。

こうして集められた400人分のデータをすべてまとめ、
それを統計的に処理して、有効性があるか否かの判断を下します。
プラシーボを飲んだ患者さんのうつはよくならないと思いきや、
実際には30~60%程度の患者さんに有効性が認められます。
これはプラシーボを飲むという「きっかけ」を通して、
安心感や期待感といった心の状態が生まれ、
これがうつの症状を改善させたと解釈することができます。
要するに、心には症状や病気を治す力、つまり「心の治癒力」があるのです。
心の治癒力が発揮された結果として、うつの症状が軽減するというわけです。

では、本物のうつ病の薬の方はどうかと言えば、
当然、それなりの効果が期待されます。
私が行った治験の中には、何と80%もの有効率が認められたものもありました。
その際のプラシーボの有効率は60%でしたから、この場合は明らかに
この薬がうつに有効であることが証明されたことになり、
今現在、うつ病の薬として全国でたくさん使われています。

でもここでよく考えないと、
この薬がうつの80%に有効なのだと勘違いしてしまいます。
例えばこの薬が60%の有効率で、プラシーボも60%だったとしましょう。
薬効のないプラシーボとこの薬の有効率が変わらないということは、
この薬を飲んでうつが改善したように見えても
それはこの薬そのものの効果ではなく、
実際には、プラシーボを飲んだことによって生じる心の反応、
つまりプラシーボ反応以外の何ものでもないということになるのです。
薬を飲んだことにより心の治癒力が引きだされ、
それでうつの症状がよくなったに過ぎないということです。

科学的根拠に基づいて、はっきりと有効性を証明するということは、
このプラシーボによる心の反応の効果を除外し、
この薬そのものに本当に効果があるのかを証明する必要があります。
先ほどの80%の有効率を認めた抗うつ剤の場合、
プラシーボの有効率が60%でしたから、
80%のうちの60%分は、実は薬を飲んだという行為によって生じる、
プラシーボ反応、つまり心の治癒力によってもたらされた効果なのです。
ですからこの薬の正確な有効率はどれくらいかと言えば、
見かけの有効率である80%からプラシーボ効果分の60%を差し引いた20%が、
この薬自体が持つ本当の有効率なのです。

この抗うつ剤は80%の有効率がありますと言われますが、
これは医学が最も嫌う「心の作用」の部分を含めた有効率であり、
科学的な立場から正確に言うならば、
抗うつ剤そのものの効果が20%であり、プラシーボによる効果が60%、
これがこの抗うつ剤の80%の有効率の中身だということになります。

皮肉なことに、心の作用による影響を排除しようと
治験という科学的根拠に基づいた研究をすることで、
実は心の治癒力による治療効果が相当にあることが
科学的に証明されてしまったのです。

この結果をもとに、単純に考えるならば
先ずは副作用もなく、値段も圧倒的に安く、
なおかつ有効率が60%もあるプラシーボの方を患者さんに処方し、
それで効果が認められなかったら、
副作用があり、値段も高い抗うつ剤の方を処方する方が、
ずっと患者さんのためになるし、
医療費の節約にもつながるのではないかと思うのですが…。
…これは私の独り言だと思っておいて下さい。

それはさておき、今述べたように、
現在西洋医学の分野で治療として使われている新薬は、
このような治験という作業を経て最終的に認可されることになります。
昔はこのような作業を経ずに薬が認可されていたので、古くからある薬の中には
プラシーボと全く差がないような薬も多々あるかと思われますが、
それでも、プラシーボ反応による症状の改善はあるはずですから、
表面上はその薬でよくなっているように見えます。

また、治験を経て科学的に有効性が証明されている新薬に関しても、
その有効性の多くの部分が
プラシーボ反応によるものである可能性は大いにあります。
これは、心を持った人間が薬を飲むという行為をする限り
そこには必ず心の治癒力による治療効果が伴うからです。

このように医療現場では、
実際の薬による治療効果と心の治癒力による治療効果を
切り離して考えることはできず、
治療効果に関しては、両者を一体のものとして考えざるを得ないのです。
つまり、西洋医学で行われている薬物療法には
心の治癒力による改善効果がかなり含まれているということです。

ですから、心によって病気が改善するなどという
西洋医学の医者があまり好まない現象が、
実際の医療現場では普通に起こっているということです。

よく健康食品を飲んで症状が改善したという話しを聞くと、
そんなのは単なるプラシーボ反応であり、
健康食品による実際の効果ではないと言われますが、
西洋医学で使われている薬の多くも、
実は似たり寄ったりのところがあるということです。

医者はその薬や健康食品が本当に効くのか否かを問題にしがちですが、
患者さんにしてみればプラシーボ反応であろうが、心の治癒力であろうが
よくなればいいと思っているのではないでしょうか。
薬や健康食品が効くの効かないのという議論を聞く度に、
何か本質を見失ったやり取りに聞こえてしまうのですが、
そう思うのは私だけでしょうか…。
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テーマ : 医療・病気・治療
ジャンル : 心と身体


プロフィール

黒丸尊治

Author:黒丸尊治
もともと心療内科医でしたが、縁あって今は緩和ケア医として仕事をしています。もともと、コミュニケーションや「心の治癒力」に大変興味をもっており、今はホリスティック医学にもかかわっています。どちらかというと、のんびり屋でマイペースです。あまり人と同じことをしたくないという、天の邪鬼なところあり。
ホリスティックコミュニケーション実践セミナーHPはこちら。
http://holicommu.web.fc2.com

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