やる気の心理学

2012年03月19日15:53

今年に入ってから何冊か本を読んでいるのですが、
その中でとても興味深い本があったので紹介します。
「行動を起こし、持続する力」(外山美樹著、新曜社)という本で、
サブタイトルは「モチベーションの心理学」です。
著者は教育心理学の専門家であり、なぜやる気が出る人とでない人がいるのか、
どうしたら人はやる気が出るのかといったことに関心を持ち、
その研究成果の歴史的な流れや現在の考え方について
わかりやすくまとめてくれているのがこの本です。

意外性のある研究成果もいくつか紹介されており、
例えば、報酬(アメ)を与えることで
人はやる気を起こすとよく言われますが、
それは一時的なものであり、実際には報酬を与えることで、
内面からわき上がってくるやる気(内発的動機)は
かえって下がってくると言うのです。

どういうことかと言うと、
最初は自ら進んで取り組んでいたことでも、報酬をもらうことで、
目的が「楽しむ」から「報酬を得ること」に変わってしまい、
その結果、内発的動機は低下してしまうというのです。
自らが自発的に取り組んでいることに対して、
むやみに報酬を与えることは、モチベーションの観点からすると
あまりよいとは言えないようです。

また、一般的に褒めることはよいことだと言われていますが、
これも、必ずしもそうではありません。
例えば、褒められることにより、
がんばろうという思いが出てくるのですが、
それが逆にプレッシャーや不安を生じさせたり、
失敗をおそれ、難しいことに挑戦しなくなったりするというのです。
また、あまり信頼していない人から褒められても、
何か裏があるのではないかと勘ぐってしまい、
返って不信感や不快感を強める結果になるという可能性もあります。

他にも意外な話しはいくつか載っています。
何かあるとすぐに悲観的で最悪のことばかり考える人がいますが、
この人たちは、防衛的悲観主義者と言われ、
最悪のことを考えることで、それを避けようと努力し、
またそう考えることが、実際に失敗した時のクッションにもなるので、
結局は、その人なりの方法で不安を上手くコントロールしているのです。
ですから、このようなタイプの人にとっては、
クヨクヨしたり最悪のことを考えたりすることは必要なことなのです。

このように、一般的には当然正しいと思われていることでも、
実際には、必ずしもそうではなく、
かえって相手のやる気を削ぐことにもなりかねないことがたくさんあるのです。
以前は心療内科の患者さんをいろいろ診ていましたが、
そう言われると思い当たる節が多々あり、この辺はちょっと勉強になりました。

また、その人のやる気が出るようなサポートの仕方に関しても、
相手の立場を理解しつつ、相手が自分の力で物事を決定し、
それが上手く達成できるように援助することで、
その人の内面からわき上がってくるやる気を引き出すことができると言うのです。

この部分を読んだとき、これはまさに私が教えている
ホリスティックコミュニケーションの中心をなすかかわり方であり、
セミナーで日々伝えていることそのものだと思いました。
自分のやっていることに学問的裏付けができたようでうれしかったです。

それから目標設定の仕方いかんによっても、やる気は大きく変わります。
目標は、具体的で自分が設定したものであり、
それが達成される確率が50%程度だと思われるようなものが
最もモチベーションが高まる可能性が高いとのことでした。

もちろん、これはあくまで一般論ですから、人により異なります。
たとえばヨーロッパ系の人たちは
自分で設定した目標に取り組むことで最も意欲が出るという結果でしたが、
アジア系の人たちは、人(重要人物)から与えられた目標でも
やる気が上がるという結果でした。

さらにセミナーをやっていて思うのですが、
先ずは第一歩を踏み出してもらうことが大切だという観点からすると、
最初の目標は、これならできそうだと思えるようなことの方が、
実行する可能性が高くなると思います。
さらに、エネルギーレベルが低い人や、
やりたいけどなかなかできないといったことに対しては、
こんなことでもいいんだ、と思えるほどの低い目標設定の方が
変化や行動へとつながる可能性が高くなると思っています。

この本で最も興味深かったのは、
人間の行動は、実は無意識のうちに決定され実行される、というところでした。
このことは、ある実験からわかってきました。
それは例えば「白髪」「杖」「体力がない」といった、
高齢者を思い浮かばせるような単語を含んだ言葉を組み合わせて、
文章を作ってもらうという課題(乱文構成課題)をした後に、
それを行った人たちがどのような行動を取るかを調べるという研究です。

この実験では、乱文構成課題を終了し、実験室からエレベーターのところまで
歩いて行く時間が密かに記録されていたのですが、
その結果、高齢者を連想する単語で文章を作ったグループの人たちは、
そうでない人たち(「喉が渇く」といった中立的な言葉で文章を作る)に比べ、
歩くスピードが遅くなったというのです。

もちろん、先ほど見た単語が
自分の行動に影響を与えていると気づいた参加者は誰もいませんでした。
つまりこの実験から、高齢者に関連した単語を読むことで、
高齢者のイメージが無意識のうちに活性化され、
それが、そのイメージにそった行動をさせたと考えらるのです。

ただ、すべてがこのような無意識レベルに働きかける刺激により
決定されるわけではなく、
自分の持っている信念等も行動に影響を与えることは言うまでもありませんが、
しかし、日々の日常で知らず知らずのうちに入り込んでくる情報により、
実はその人の行動やモチベーションといったものが
大きな影響を受けているというのは、とても興味深い研究だと思いました。

ホリスティックコミュニケーションのセミナーでも、
「できていること」や「うまくやれそうなこと」に焦点を当てながら、
話しを聴いたり、質問したりするということを
様々なワークを通して繰り返し体験学習していくのですが、
この研究の仮説からすると、セミナーを受けることでインプットされる
「できていること」に目を向ける視点や、
今の自分でOKなんだという自己肯定感は、
その後の日常生活における無意識の行動にも
影響を与えているということになります。

つまり、セミナー受講後に日常生活に変化が現れてくるというのは、
意識的に行おうとした問題解決への取り組みとは全く別に、
こうした無意識レベルでの働きかけが、その人の行動に変化を引き起こし、
それが問題解決につながっている可能性があるからだと言えるかもしれません。

そうであれば、クライエントの抱える問題を明確にして、
解決のための第一歩を踏み出してもらえるようなサポートをするのも重要ですが、
それ以上に、肯定的なかかわり方の中で交わされるさりげない言葉も、
無意識に影響を与え、行動にも肯定的な変化をもたらし、
延いてはその人の日常生活や人生にも影響を与えるわけですから、
これは極めて重要なことなのだと思うようになりました。

無意識レベルの重要性は、知識としては知っていたつもりでしたが、
こうした現実の中で生じる出来事に当てはめながら考えてみると、
その影響の大きさを、あらためて気づかされた思いがしました。
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テーマ : 読んだ本
ジャンル : 本・雑誌


プロフィール

黒丸尊治

Author:黒丸尊治
もともと心療内科医でしたが、縁あって今は緩和ケア医として仕事をしています。もともと、コミュニケーションや「心の治癒力」に大変興味をもっており、今はホリスティック医学にもかかわっています。どちらかというと、のんびり屋でマイペースです。あまり人と同じことをしたくないという、天の邪鬼なところあり。
ホリスティックコミュニケーション実践セミナーHPはこちら。
http://holicommu.web.fc2.com

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