患者さんの死と距離感

2011年07月28日05:59

私はこの8年間で1,000人以上の患者さんを看取ってきました。
毎月10名以上が亡くなる計算になります。
こんなに多くの患者さんの死を経験して
気分が滅入りませんかとよくたずねられるのですが、
実際には、皆さんが思っているほど気持ちは落ち込みません。

一般的に死は人生における最も大きな悲しみのひとつでしょうから、
それが頻繁にあれば、当然気分も滅入るだろうと思うのでしょう。
もちろん、つき合いが長かった患者さんや親しくしていた患者さんは
確かに悲しい気分になります。

しかし実際には入院して2週間以内に亡くなる患者さんが
4割近くを占める病棟においては、
あまり深いつながりが持てないまま
亡くなってしまう方の方が圧倒的に多いのです。

またこれだけたくさんの患者さんの死に対して
毎回落ち込み、気持ちを引きずっていたら
正直言って仕事になりません。
冷たいように思うかもしれませんが、
仕事としての割り切りがある程度は必要だと思います。
つまり、ある程度の距離感を持って
患者さんとかかわっていくということが大切だということです。

ただ、この距離感がありすぎると、
全くの赤の他人とかかわっているようになってしまいますし、
逆に距離感が近すぎると「巻き込まれる」という状況になってしまいます。
巻き込まれるというのは、よい意味でも悪い意味でも、
患者さんに対する思いが強くなり過ぎてしまう状態です。
何とかしてあげたいという思いはよいのですが、
時にはそれが恋愛感情にまで発展することもあります。
逆に悪い意味では怒りやイライラ、
もう顔も見たくないという思いすら出てきます。

いずれの場合も自分自身をコントロールできなくなっているという意味では
同じ「巻き込まれている」状態になっているということです。
ですから患者さんが亡くなり、
気持ち的にずっと尾を引くような状態だったならば
これは明らかに巻き込まれている状態になっているということなのです。

たとえ巻き込まれても、
その患者さんに思う存分尽くしてあげることができたならば、
それはそれでよいのかもしれません。
しかし、その結果として落ち込み、仕事に差し支えるようでは問題です。
もっとも、よほど身近な人か、かなり思い入れの強い患者さんでない限り、
そのようなことはあまりないとは思うのですが…。

一方、身内の死は結構ショックを受けることが少なくありません。
親、兄弟、子どもなど、そのつながりが強ければ強いほど
ショックや落ち込みも大きいものです。
そのつながりの強さは、数ヶ月のかかわりしかなかった患者さんとは
雲泥の差があるのは当然のことです。
だからこそ、身近な人が亡くなれば気持ちが沈むのも当たり前なのです。

つまり、身内の死と患者さんの死は自ずと次元が異なるものなのです。
つながりの強さからいってもそれは当然です。
患者さん一人ひとりに対しても、自分の身内と同様な思いでかかわるというのは
理屈では理解できても、現実的には不可能なことです。
逆に、そのようなことをしたならば
月に10人以上もの親兄弟を亡くすのと同様な状況にさらされることになり、
とても仕事を続けていけるような状態ではなくなってしまうと思います。

患者さんにできるだけのことをするというのはとても大切なことだと思いますし、
死という、その人の人生の最後の時に、
敬虔な思いでかかわることも、とても大切なことだと思います。
しかし、そこに感情移入をし過ぎてしまい、
自分自身が落ち込むほどの状態になってしまうというのは、
決してよいかかわりだとは思いません。

だからこそ、どんな患者さんに対してもある程度の距離感が必要なのです。
それが、患者さんとの適度な関係を保ちながら
いい状態でのかかわりを続けるためのコツだと思っています。
私はそう考えています。
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テーマ : モノの見方、考え方。
ジャンル : 心と身体


プロフィール

黒丸尊治

Author:黒丸尊治
もともと心療内科医でしたが、縁あって今は緩和ケア医として仕事をしています。もともと、コミュニケーションや「心の治癒力」に大変興味をもっており、今はホリスティック医学にもかかわっています。どちらかというと、のんびり屋でマイペースです。あまり人と同じことをしたくないという、天の邪鬼なところあり。
ホリスティックコミュニケーション実践セミナーHPはこちら。
http://holicommu.web.fc2.com

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