がんの自然寛解(かんかい)と心の治癒力

2011年05月31日15:07

先日、ある患者さんが久しぶりに外来に来てくれた。
前回が去年の2月だったので、約1年半ぶりになる。
毎回これくらいの頻度での外来受診だ。
彼は80代の肝臓がんの患者さんで、
拙著「緩和医療と心の治癒力」にも少しだけ登場する人物だ。

彼は、10年前に肝臓がんが見つかり手術をするも再発、
4年前に再手術するもその数ヶ月後には再々発。
その段階ですでに肝臓には十数個の腫瘍があり、
もうこれ以上の治療は困難と診断されたため、
3年半前に私のところを訪れた患者さんだ。

その時、AFPという腫瘍マーカーは3,217とかなりの高値を示していた。
しかしその後、なぜか腫瘍マーカーは下がり始め
2ヶ月後には300代へ、1年後には100代へ、
2年後には70代にまで下がり、今回も同じ程度で推移していた。

その間、CTやエコーも何度か取っているが、
十数個あった腫瘍はきれいになくなり、
今も画像的にはがんの存在は認められない。
もちろん本人は元気であり、ごく普通の生活を送っている。
私が緩和ケアで診ている患者さんの中で、
今も生存している二人の自然寛解患者さんのうちの一人だ。

なぜがんが消えてしまったのか、はっきり言ってよくわからない。
私が何かアドバイスしたわけでも、特別なことをしたわけでもない。
ただ、今どんなことに取り組んでいるのかを聞いてみただけだ。
その時彼は、当時していたいくつかの取り組みについて教えてくれた。
そのひとつが呼吸法だった。これは以前から関心があったようで、
今でも毎朝欠かさずやっているとのことだった。

それに加え、当時はヨガや食事療法もしていたが、
今は、ヨガはしておらず、
食事療法もにんじんリンゴジュースを飲み、
肉類は少なめにしているといった程度の軽めのものだ。
また、障害者施設でのボランティア活動もしており、
これは今でも週に1~2回は行っているとのことだった。
その他にサプリメントも数種類飲んでおり、これも続けていた。

私は、がんの自然寛解には心の状態が極めて重要だと思っているが、
では、どのような心の状態が自然寛解をもたらすのかと言われると、
実はこれがよくわからないとしか言いようがない。
前向きな気持ちとか開き直りの気持ち、明るさ、喜びといったような
そんな単純な言葉でくくれるようなものでないことだけは確かだ。

少なくとも彼を見ている限り、
今まで見てきた自然寛解の患者さんとは明らかにタイプが異なる。
彼は当時、がんに対する不安感を強く持っていたし、
前向きだとか開き直っていたというわけでもなかった。
不安を抱えながらも日々の生活を自分なりに送っているだけだった。

先日会った時も、当時とあまり変わった様子はなかった。
とても温和な面立ちをしているが、どこからどう見てもごく普通の人なのだ。
どこに、がんを消し去るほどのそんなエネルギーが隠されているのか、
彼に会うたびに考えてしまうのだ。
でも、今回はふと思ったことがあった。
もしかしたら、自らの意志で真剣に何かに取り組むという純粋な姿勢が、
心の治癒力を発揮する原動力になっているのではないかと思ったのだ。

彼は今でも呼吸法だけは続けていると言っていた。
私は、毎日それに真剣に取り組むその姿勢や思いが、
自己治癒力を次第に活性化させるのではないかと思ったのだ。
同時に、呼吸という、宇宙や大自然と己をつなぐ、
極めてスピリチュアルな営みそのものが、
身体や心、さらには魂にも
何かしらの影響を及ぼしていることも考えられる。

さらに、以前から気になっていたのは
障害者施設へのボランティア活動だ。
これもずいぶんと前からしているようだが、
このような施設へボランティアに行くというのは
少しでも障害者のために何かをしてあげたいという、
見返りなど期待しない無償の愛のような、
そんな純粋な思いがあるからこそできるのではないのだろうか。

このように、何かに一生懸命取り組むという姿勢は
明るさや喜びといった、きらびやかな心の状態よりも
もっと強いエネルギーを持っているのかもしれないと思った。
彼はとても温厚で穏やかな雰囲気を持った人だが
がんを消し去るほどのエネルギーを持っているのは事実なのだから、
その原動力は何なのだろうかと考えた場合、
もしかしたらこの純粋な真剣さなのかもしれないと
今回、彼と外来で話しをしながら思ったのだ。

いずれにせよ、本当のところはどうなのかわからない。
心の治癒力だけですべてを説明しようとすることに無理があるのかもしれない。
でも、それでよいのだ。わからなくてもよいのだ。
あれこれ考えるだけでもよいのだ。
そもそも、心というものは摩訶不思議な存在であり、
理論理屈で理解できるようなものでもないのだ。
だから面白いとも言える。

また来年、忘れた頃に彼は私の外来に来てくれるだろう。
その時もまた、同じようにたわいもない話しに花を咲かすことだろう。
結局、なぜ彼のがんが消えてしまったのか
最後までわからないままかもしれない。
でも、それでいっこうに構わないと思っている。
心はそんな単純なものではないのだから…。
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テーマ : 心と身体
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プロフィール

黒丸尊治

Author:黒丸尊治
もともと心療内科医でしたが、縁あって今は緩和ケア医として仕事をしています。もともと、コミュニケーションや「心の治癒力」に大変興味をもっており、今はホリスティック医学にもかかわっています。どちらかというと、のんびり屋でマイペースです。あまり人と同じことをしたくないという、天の邪鬼なところあり。
ホリスティックコミュニケーション実践セミナーHPはこちら。
http://holicommu.web.fc2.com

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